
<日常からの脱出1>−ここではないどこかへ−
まだ夜が明けぬうちにベッドから抜け出し、ライディングジャケットを羽織る
近所の住民を考え、約100m先の主要道路まで250kgの巨体を押して歩く
音の無い全くの静寂の中、メインスイッチをONにする
オレンジ色に浮かび上がるメーターの中に、グリーンに光るランプを確認
セルモーターの乾いた音の直後、轟音と共に4つ並んだピストンが一斉に目を覚ます
この瞬間、僕自身のうつろだった目も、”おはよう”と約1年を共にした相棒に語りかける
さあ、標高2700mの<秋>を目指してシフトを1速に蹴り込む
日が昇るのはいつ頃だろう?
国道299号に入り、あたりの景色の中に人工の光はめっきり減る
やっと街を抜け出した気持ちになる
日本の国土はその約7割を森林比率として計上している
先進諸国で森林比率6割を超えるのはフィンランド、スウェーデンそして日本だけらしい
その国に生まれ、鉄の馬を手に入れて、紅く染まる山を目指すのに理屈なんて無くていい
そんなことを考えながら時速100km以上というオーバースピードでコーナーに進入
ブレーキレバーを2段階に分けてひき、限界まで車体を寝かし、全体重を遠心力の内側に移す
ガリガリと嫌な音と共にステップから火花が散る
−助かった−皮肉なことに人工的に作られた回転半径の道だったから
これが自然のままの地形に作られた複雑な円周を組み合わせたカーブだったら・・・
”アブナカッタナ、タノムヨ” 相棒の声が聞こえた気がした
山梨と埼玉の県境にある雁坂トンネルの長い無機質なコンクリートのチューブを抜ける
一気に気温は一桁前半に落ち込む、指先の感覚が抜けていく
しかし救いなのは空が紫色に変わりつつあることだ
お天道様が顔を出すまで缶コーヒーで体を温める
隣で鉄の冷える音がキンキンと小さく鳴っている (さっきはゴメンヨ)
武田菱の山梨県警には挨拶したくなかったので、甲府昭和ICから中央高速に乗る
八ヶ岳を右に見ながら一気に塩尻ICまで飛ばす
国道158号を西に進路を取り3つのダムをやり過ごし、
殆どカラになった相棒にメシを食わしてやる
僕の腹も減ったところで道の駅でカレーの大盛りをむさぼる
愛想のいいおばちゃんが差し出したそのカレーは、
なにげに中のほうが冷えた、いわゆるボンカレーだった
つづく click!