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風のある景色(日野2)


 ターンパイクの入り口に隣接する駐車スペースは時間の早いせいもあるのだろうか、彼一人の場所となっていた。タバコを取り出し、オイルライターで火をつけ、深く煙を吸い込み、一瞬だけ息を止め、空に向かって一息に吐き出した。程よく冷えた朝の空気が身体を取り巻いていることに嬉しくなり、日野は一人、誰もいない場所で口元で笑っていた。

 彼がもう一本のタバコを取り出したとき、1台のクーペがゲートに差し掛かった。きれいな銀色の車体に陽の光を受けてボディー曲線の至る、いくつかの頂点に光の玉を作っていた。最近ではもう見なくなった、旧い車体だがそのデザインの良さと、トータルバランスの良さは一部の4輪好きには定評のあるものだという事は彼の少ない4輪の知識にもあった。
 「さっきウィンカー点けっぱなしで走ってた車かな?」と、ふと思ったがそのクーペはゲートを抜け、加速していった。その排気音はどこか懐かしさを覚える響きを残していった。追いかけてみようか?とも思ったが、指の間で行き場を失っていたタバコを思い出し、火をつけた。煙を吐き出す日野の口元は笑っていた。

 ターンパイクのコーナーは大きく弧を描いており、彼のような大型のオートバイでも十分に楽しむ事ができた。コーナーの進入スピードとギアの選択を間違わなければ体重移動と視線の配分で250キロの巨体も左右にバンクし、流れるようなリズムでコーナーを抜けて行った。空に向かって伸びていくような上りの路面の先に蒼い空が広がり、このまま飛べるのではと錯覚する瞬間が何度となく訪れる。1つのコーナーをクリアしまた1つコーナーが現れる。このコーナーの先はどんな景色だろう?オートバイに跨る多くの人が抱く気持ちを日野も味わっていた。夢中になって駆け上がっていくと、頂上附近に出たのだろう、コーナーの数は減り、勾配もゆるくなった。ギアを一段高くし、エンジンの回転数を下げると排気音も穏やかなものに変わる。身体の隅々まで神経が行き届いているような感覚があり、高揚していた気持ちも穏やかな充足感に変わっていく。頂上の展望駐車場を日野はパスした。もう少し、オートバイに跨ったままでこの感覚を味わっていたかった。

 ターンパイクの先は高原道路となっており、視界は急激に開けた。海まで見通すことの出来る場所に小さくレストハウスがたたずんでいる。日野はオートバイの前輪を海に向け、サイドスタンドに車体を預けた。
 「コーヒータイム・・・」ヘルメットを脱ぎつつ、彼は独り言のようにつぶやき、押しつぶされていたクセのある髪を片手でくしゃくしゃにしながら、さえぎるものの無い正面からの風の自由にしてやった。


 
>> 風のある景色(美紀子2)